ここ数年、暖冬が続いている蓼科高原だが、まとまった雪が降る日もあり、目覚めると窓の外は一面雪景色なんてことも珍しくない。風のない朝の森には、白い花を全身に纏ったような樹氷が広がり、あまりの美しさに言葉を失う。別荘地内の幹線道路で車を走らせ、視界の広がる場所へ出ると、白く輝く八ヶ岳連峰や中央アルプスの稜線を望むことができる。

　チェルトの森別荘地内の「槻の池」湖畔は視界が広く、目の覚めるような冬景色を楽しむことができる場所の一つ。雪の上を自在に歩けるスノーシューを履けば、雪が降り積もった湖畔を楽々散歩できる。スノーシューとは日本のカンジキに似たもので、クロスカントリースキーのように特別な走行法をマスターしなくても雪の上を靴で歩くような感覚で散策できることから、幅広い層に愛好されている。

　スノーシューを履き「槻の池」へ向かって歩き始めると、先客がいたらしく雪の上には野生動物の足跡が点々と残されていた。ウリを二つ並べたような足跡はシカかニホンカモシカの足跡だと思われる。1匹の足跡が一直線に伸びているところから考えると、単独で行動するカモシカかもしれない。

　見慣れたシカよりもカモシカの足跡だと思った方がロマンを感じるので、カモシカと信じ足跡に沿って進んでいくと森を抜け「槻の池」の湖畔に出た。足跡は湖面が結氷していない場所へ伸びていたので水を飲みに来たようだ。

　「槻の池」は、春から秋までマスやイワナが釣れる管理釣り場になっており、シーズン中はフライフィッシングのロッドを振る釣り人をよく見掛けるが、真冬の湖畔はシーンと静まりかえって時が止まっているかのよう。満々と水を湛えていた湖面は白く染まり、樹々のシルエットが影絵のように揺れている。

　静寂に包まれ何もかもが眠りについているかのようだが、あたりを見渡してみると大小様々な動物たちの足跡が縦横無尽に点在している。普段用心深くてなかなか姿を見せてくれない野生動物たちの暮らしを、足跡から想像するのも楽しいものだ。

　そして純白の湖面から視線を上へ移せば、深蒼の空の下に穂高連峰をはじめとする北アルプスの白い稜線が凜と輝き、荘厳な情景が広がっている。森の向こうに顔を出す蓼科山や北横岳、眼前に迫る北八ヶ岳の主峰・天狗岳…。空気が澄み渡る冬は、稜線のシルエットはもちろん山肌までくっきり見え、大きく視界が広がる「槻の池」湖畔はまるで展望広場のよう。山々の繊細な表情を楽しむことができる。

　深く濃い蒼空と白い稜線の鮮やかなコントラスト。静寂な雪原に秘められた野生動物たちの息づかい。そして深雪の上を自由に歩き回れるスノーシューでの雪上散歩。冬の蓼科には、冬にしか味わえない魅力がたくさんある。
　早春を迎え、東京都心はこれから日一日と春めいていくが、標高1,000mオーバーの蓼科高原の春はまだまだ遠い。天気予報に雪マークが付いたら雪上散歩のチャンスですよ。