長時間露光で撮影した八ヶ岳連峰から昇るオリオン座(撮影/三沢房雄さん・原村星の降る里同好会メンバー)
空気が澄みわたり、満天の星が夜空を埋め尽くす八ヶ岳山麓。
アマチュア天文家の観測所だけで300ヶ所以上もある天体観測の聖地だ。
近年、街の明かりで星が見えなくなってきた都会から、
多くの人が星空を求めてやって来ている。
都会では味わえない“ 星降る静かな夜” をご紹介しよう。
最近、星空を眺めたことがありますか。都心で暮らしていると何かと慌ただしく、夜空を見上げる心の余裕などなかなか持てないもの。たまに仰ぎ見ても街灯やビルの明かりが空に乱反射し、灰色のスクリーンに覆われているかのよう。24時間営業の店が増えたせいなのか、明るいLEDの街灯が普及した影響なのか、ネオンサインが乱立する繁華街だけでなく住宅地の夜空も明るくなり、めっきり星が見えにくくなってしまった。
「♪~見上げてごらん夜の星を~小さな星を~♪」という昭和の名曲を口ずさんでみたものの、都心の夜空で見えるのは月ぐらいで、小さな星はすっかり姿を消してしまった。
人も明かりも24時間眠らない都心
都会の夜空で月以外の星は見えにくい
夜空の星が消えた都心からクルマで約2時間半、中央自動車道を走り諏訪南インターを下りて八ヶ岳ズームラインを上って行くと、そこには漆黒の闇夜の世界が広がる。クルマを停めヘッドライトを消し車外に出て空を仰ぐと、幾千粒もの星たちが夜空を埋め尽くしている。
八ヶ岳山麓の標高1,200m~1,400m付近に広がる蓼科高原は、市街地から離れているので街明かりの影響もほとんどない。空気の透明度が高く、晴れた夜の満天の星々は、見る者を圧倒する。見えないことが当たり前になってしまった都会では想像もできないこぼれ落ちんばかりの星の洗礼を受け、天体観測に目覚めてしまう人も多いのではないだろうか。
初めのうちは星が見えるだけでも感動できるものだが、満天の星空を眺めているうちに「あの明るい星は何ていう名前なのだろう、誕生月の星座はどこだろう」など、星への興味がどんどん湧いてくる。
冬の夜空に青く輝くプレアデス星団(すばる)やオリオン座大星雲M42が肉眼でも見える
銀河の海へ漕ぎ出そう。
そんなプチ天文ファンの気持ちに応えてくれるのが『八ヶ岳自然文化園』を拠点としている『原村星の降る里同好会』。定期的に星空観望会を開催し、スターウォッチングの楽しみ方を紹介してくれる。
『原村星の降る里同好会』は、1994年の発足以来20数年にわたり、星空の魅力を多くの人たちに伝えることを目的に活動しており、彗星の大接近や流星群など大きな天文ショーがある時には臨時イベントを開いている。雨あられと降る“しし座流星群”の時には、NHKが『八ヶ岳自然文化園』から生中継したこともある。
地球に大接近した“百武彗星” (撮影/武居直幸さん・原村星の降る里同好会メンバー)
八ヶ岳自然文化園から望む“しし座流星群” (撮影/太田直志さん・原村星の降る里同好会メンバー)
星空観望会では、まず『八ヶ岳自然文化園』内のプラネタリウム施設で星空の動きや星座のかたちなどを教わり、宵を迎えた屋外の広場に寝転んで実際の星空を眺める。『原村星の降る里同好会』のメンバーが天体用レーザーポインターで星の位置を示しながら、星座や星雲を教えてくれる。
天体望遠鏡や双眼鏡も用意されており、同好会のメンバーが土星などの惑星や月のクレーターなどに望遠鏡を合わせて見せてくれる。双眼鏡ではアンドロメダ銀河の大渦巻きやオリオン座M42大星雲の淡い光の広がりを見ることができる。
天体望遠鏡では土星の輪がよく見える
星の世界が和気あいあいと楽しめる観望会
スターウォッチングは、最高のセラピー。
星空観望会は4月から12月まで毎月1回のペースで開かれ、ここ数年、どんどん参加者が増え続け、首都圏をはじめ、小田原、清水、静岡、豊橋、名古屋など東海圏からもやってくる人が多いとのこと。
同好会の事務局長を務める北原芳誠さんは、「遠くから大勢の人が星を見に来てくれるのは有り難いのですが、それだけ街で星が見えなくなっているということなので、複雑な気持ちですね。街明かりの影響もありますが、温暖化で大気中の水蒸気が増え空の透明度が落ちているようです」と心中を語る。10年ほど前の観望会参加者は、宇宙を詳しく知りたいという天文ファンが中心だったが、ここ数年は満天の星空を見ただけで大満足の家族連れが多いという。
空が暗く空気が澄みわたる八ヶ岳山麓では、淡い光の天の川もよく見える(撮影/三沢房雄さん)
世の中が便利になればなるほど、ますます失われていく星空。街で空を見上げても星が見えないため、いつの間にか夜空を眺める気持ちすら失っていた。
八ヶ岳山麓で満天の星に出逢ったおかげで、ゆったりと夜空を眺める心のゆとりが蘇ってきた。地球から何万、何千光年も離れた星々の輝きに包まれていると、人の暮らしは本当にちっぽけで、日常のアレコレなどどうでもいいように思えてくる。スターウォッチングは、最高のセラピーかもしれない。
陽が沈み月が昇ると、蓼科の夜空でまもなく銀河劇場が開演する
『八ヶ岳自然文化園』から『蓼科高原チェルトの森』まで約10km。別荘地の夜空にも星々が天空を埋め尽くさんばかりに瞬いている。
これから迎える冬は、一年のなかで空気の透明度が最も高い季節。明るい一等星がとても多く、蓼科の夜空一面に星々がひしめき合う。防寒着に身を包み、別荘のデッキ、庭、見晴らしのいい道へ出て空を見上げれば、きっと地球と一体になれるはず。宇宙へ身を委ねる星空散歩を、冬の蓼科で、ぜひ。
霧ヶ峰高原から撮影した八ヶ岳連峰上空を埋め尽くさんばかりの星々(撮影/太田直志さん)
> 第264回原村『星の降る里』STAR WATCHING「冬の星座と月のクレーターを見よう!」
■日時:12月17日(土)予約不要
◎受付開始/19:45 ◎プラネタリウム観覧/20:00(40分間) ◎屋外観望/20:45~21:30頃終了
■参加費:500円/一人
お問い合せ/八ヶ岳自然文化園 TEL.0266-74-2681