蓼科生活Vol.3 蓼科の光の中で
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透明感あふれる自然光を受けて輝くダル・ド・ヴェールの作品。厚みのあるガラスを透過した光は多彩な表情をもつ

理想的な創作環境を求めて、蓼科高原にアトリエを構える工芸家が増えている。
「チェルトの森」柳川街区にアトリエを持つステンドグラス作家の桑原あずささんもその一人。
蓼科高原の透明感あふれる空気のなかで、
20年以上にわたり温もりある作品を生み出しているアトリエにお邪魔してみた。

 ガラスの厚みが2~4cmほどのボリューム感があるダル・ド・ヴェールを中心に、ガラスの食器に砂の絵柄を吹き付けるサンドブラストなど、建築物からインテリア小物まで多種多彩なグラスアートを手掛けている桑原さん。現在、「蓼科高原チェルトの森」と京都にアトリエを構え活動している。
 桑原さんが「蓼科高原チェルトの森」にアトリエを構えたのは平成6年。公共施設や医院の待合室など大きなステンドグラスのオーダーが増え、京都の自宅アトリエでは手狭になり、のびのびと制作できるスペースを求めアトリエを兼ねた別荘を建てたという。

大胆かつ繊細な作品を蓼科のアトリエで創作している桑原さん

パステルピンクのガラスを加工したファッショナブルな箸置き

空気が澄みわたる蓼科高原で見るグラスアートは一際鮮やか

 数ある別荘地の中からなぜ蓼科高原を選んだのか。その理由は、桑原さんのご両親が無類の登山好きであったこと。八ヶ岳や北アルプスには何度登ったか分からないくらいで、愛娘に”あずさ“と名付けたほど。当然、候補地は信州に絞られた。
 別荘をアトリエとして利用するため、長期滞在を念頭に冬の除雪などの管理体制は必須条件。『蓼科高原チェルトの森』は、除雪作業はもちろん、安心安全な森の暮らしを支える巡回パトロールなど管理体制が充実しており、桑原さんの選択規準を満たしていた。

年中無休で別荘地内の状況を確認する巡回パトロール

降雪時の道路交通を確保する除雪作業

 シラカバやカラマツの群生林、八ヶ岳の眺望、野鳥の囀り、清々しい空気、四季の彩りに包まれた湖畔…。純粋な自然に包まれた別荘地内の環境は創作の場として申し分なく、当時販売中だった柳川街区の土地を購入。
 アトリエを備えた別荘を建て、今日まで約20年にわたり蓼科と京都の二拠点生活を続けている。滞在期間は、6対4の割合で蓼科の方が長いという。

カラマツの黄葉を湖面に映す槻の池。別荘地内には創作意欲をかき立てるモチーフがたくさんある

蓼科の光が生命を吹き込む

 「ここは、本当に自然の宝庫ですね。窓から外を眺めていると、リスやキツネなどの野生動物たちがよく庭先を横切って行きます。以前、家の中に迷い込んだヤマネ(天然記念物)を保護したこともあります」と桑原さん。
 そんな八ヶ岳山麓の自然の真っ只中で暮らしていると、作品のモチーフにも事欠かない。季節の花々、緑の木立、雪の結晶、空を飛び交う小鳥…、蓼科で当たり前のように出会う小さな自然の一コマが作品の中に息づいている。

別荘オーナーから注文を受けた作品『チェルトの森の秋』。
依頼主の要望でフクロウとヤマガラが添えられている

桑原さんの別荘に迷い込んだ天然記念物のヤマネ

ヤマモミジを透過する光はステンドガラスに通じるものがある

 しかもステンドグラスはいわば光の芸術。同じ色、同じ形のガラスでも光の角度や強弱で、微妙に表情を変えて行く。
 特に2cm以上の厚いガラスを用いるダル・ド・ヴェールの作品は、同じ一枚のガラスでも表面の凹凸が異なり、ガラスそのものが描き出す光の表情をいかに活かすかが鍵を握っている。
 空気が澄み渡っている蓼科は光の純度が高く、自然光に照らし出されるガラスの表情を自分の目で確かめながら制作できるので、繊細な色彩や光の厚みなどガラスそのものの個性を引き出せる。
 桑原さんが生み出す花や森、小鳥や雪などのダル・ド・ヴェールは、シンプルな中に温もりあふれる豊かな表情を宿しており、光を受けて優しく微笑みかけてくる。蓼科の自然光の中で生命が吹き込まれているかのようだ。

原寸の設計図の上に並べられた厚みのあるガラス

雪の結晶の形に切り抜いかれたガラスのピース

夕陽を背に飛び交う鳥を描いた作品がリビングルームの壁にセットされている。温もりのある鳥のシルエットが印象的

蓼科アトリエ生活、第二章

 蓼科の自然の中で創られた作品を京都の展覧会で発表し、公共建築などの大規模な制作物を精力的に手掛けるうちに、新築当初は充分に広かったアトリエも15年ほどで手狭になってきた。講師として京都のステンドグラス教室に出向く機会も多く、もっと気軽に往き来できる場所への住み替えを決意。
 創作に適した自然環境はそのままに、同じ柳川街区の中でも茅野市街へ出やすい街区入口付近の土地を購入。平成21年に新しい別荘が完成し、新たな創作活動が始まった。

旧別荘より幅も高さも拡大した新別荘のアトリエ。熱効率の高い薪ストーブを備えている

熊本県の重度心身障害児の施設に入れた作品『青い鳥ー生命の樹』。みんなが暮らす施設を“樹”で表現している

 建物はアトリエの拡大はもちろん、最新の設備を導入。断熱性能をはじめ建築技術の進歩は著しく、冬の水抜き水通し作業が必要の無い蓄熱システムを採用するなど、以前の別荘とは比べようもないほど快適だ。
 真冬でも別荘に着いた瞬間から室内が暖かく、都会の住宅と同じ感覚で過ごせるので滞在期間はさらに延びたという。
 床面積を拡大した新築後のアトリエは、作品のスケールを広げるだけでなく、依頼主との打ち合わせやギャラリーとしても活用。
 蓼科の自然光が創り出すステンドグラスの彩りを多くの方に味わっていただきたいとの想いから、夏にはオープンアトリエを開催している。
 20年前、ステンドグラスの理想的な創作環境を求めて蓼科高原にアトリエを構えた桑原さん。同じ別荘地の同じ街区に住み替えるほど、『蓼科高原チェルトの森』への想いは強い。
 透明感あふれる自然光、四季の彩り、純粋無垢な森の住人、雄大な山岳風景…。何年経っても色褪せない魅力に満ち溢れ、京都に居るとまたすぐに蓼科へ戻りたくなるそうだ。

蓼科と京都の往復を楽々こなす桑原さんの愛猫“じょんじょん”。
旅する17歳の女の子

アトリエ内には、窓辺を彩るインテリア小物など
大小様々な作品が展示されている

白い森に抱かれた住み替え後の新築別荘。
外がどんなに寒くても室内は宇宙船のように快適

高い断熱性を持つ角ログ材で組まれたリビングルーム。蓄熱式床暖房システムを備え、暖房器具は薪ストーブ一つで充分すぎるほど暖かい

地元に溶け込み、地元に根ざす

 また長年の別荘生活の中でオーナー同士の交流も深まったと桑原さん。新そばの収穫期には、八ヶ岳山麓産のそば粉を製粉元から入手しそば打ち会を開くなど、蓼科の旬を存分に楽しんでいる。
 ここ数年はステンドグラスの制作で忙しくなり遠ざかっているが、野菜の直売所で知り合った地元のお婆ちゃんと仲良くなり、畑を借りて無農薬で野菜を作ったり、天下の奇祭̶御柱祭に参加したり、地元との交流も広げてきた。
 そして2015年8月には、【公益財団法人東京子ども図書館】が陸前高田市を中心に行っている東日本大震災復興支援活動“3.11からの出発” の応援として、ご友人のフルートアンサンブル“奏”のコンサートを『鹿島南蓼科ゴルフコース』のクラブハウスで開催するなどチャリティ活動も行っている。

飲食店用のポスターを貼り、大いに盛り上がった新そばパーティー

チャリティコンサートを行ったフルートアンサンブル〈奏-KANADE〉

無農薬にこだわって育てたズッキーニ。農家に匹敵する出来の良さ

桑原さんがズッキーニで作った“ トトロ”。子どもたちに大人気!

建物の快適性が向上し、創作もレクリエーションも思いのまま。
蓼科の魅力がさらに増したと語る桑原あずささん

2015年の日本ガラス工芸協会の公募展で入選した作品『雨あがり』。
現在全国を巡回中

 長年の別荘生活で蓼科の風土にしっかりと溶け込み、地域に根ざした交流の輪を広げている桑原さん。
 蓼科の大自然は、ステンドグラスの創作に適していることはもちろん、活き活きとしたライフスタイルの原動力になっているようだ。

取材協力/アトリエ ラ・ミュール
TEL・FAX:0266-76-6096 Mobilephone:090-3275-6394
〒391-0213 長野県茅野市豊平7695 チェルトの森柳川2-2-1